第1回 Però 森田雅人 ー後編ー

第1回に引き続き、三軒茶屋『Però』の森田さんへのインタビュー、いよいよ後編です。2014年春イタリアに渡ってから、今までどのような道のりを辿ってきたのか。お話を伺いました。

ワインの生産者は、農業者である

2014年春、ローマに渡って語学学校に通いながら、縁あって『LITRO』というワインバーで働くことになるのですが、“良いものは、良いものから”と素材から厳選して、自然の味を楽しむというお店のスタイルが、森田さんの背中を大きく後押ししました。

実は、『LITRO』のメニューの裏に書いてあるメッセージ、『Però』のメニューにもイタリア語のままで記載されています。そのくらい、大切な時間と経験だったのです。当時一緒に働いていたスタッフも国際色豊かで陽気な雰囲気で、子どもたちが店内を走り回っているようなフランクなお酒の場。そんな心地よい空間の中で、ワインの生産者や農業者との出会いも重なり、いつしか自然と向き合って実直に食べ物を“つくる”人々への関心が高まっていた森田さん。

その年の大晦日に、家族経営のワイナリー『カルッシン』の兄弟に出会ったことをきっかけに、今度はピエモンテ州に住み込みで働きに出ることを決意します。都市部とは離れた自然豊かな土地に拠点を移し、水よりも何よりも一家で生産するワインが一番身近でカジュアルな飲み物だったというワイナリーならではの暮らしはとても穏やかで、気持ちよかったそう。

それから1年間を予定していた留学を半年延長したのち日本に帰国し、表参道のイタリア料理店『フェリチタ』に移って更なる修行を積みます。

『Bricca』と『Però』の有機的な関係

ここで少し、『Bricca』の金田さんから教えてもらったワインの話を。

遡ること、かの有名なナポレオンの時代です。ワインって今でこそ贅沢な印象の飲み物ですが、そもそもの生まれは、水の飲めない土地でどうにかして作った飲み物。ちょっとマニアックな話、全ての果実には複数の種類の菌が存在しているのですが、ことさらぶどうには酵母という菌がたくさん含まれていて、これを放っておくと勝手に果実の分解(=醗酵)が進んでいきます。

アルコールや炭酸ガスもその過程の中で本来自然に生成されるもので、ここに何も手を加えないで自然の流れに任せて出来上がるのがいわゆるナチュラルワインなのです。それで出来上がったワインをボトリングして何十年置いていたってアルコールの中ではばい菌が繁殖することはないので、ワインはいつまで経っても腐敗しない飲み物なのです!

これは世紀の大発見、ナポレオンは遠征の先々にぶどう畑を開拓させる部隊を送ってワインを作らせていたそうな。更に、醗酵で常に菌が動き回っている状態なので「いつ飲むか」で味が本当に、全く別物に変わりゆくもの。それこそが、ワインの魅力だと金田さんは優しく笑いながら教えてくれました。

そして、流通の都合で売るタイミング、飲むタイミングを思うように提供できなくなっている業界全体のもどかしさに対して、地下倉庫に3000本のワインを寝かせて貯めるという挑戦をしたのが、『Bricca』です。例えばこのワインが、10年後にどんな味になるか想像できるものなのですか、と尋ねると、「ある程度パターンがあるから、分かりますよ。あとは経験です。」と答えが帰ってきたので、世界にはまだまだ知らない部分がたくさんあることに落ち込み、でも興味が湧いてきた。

地下に眠る宝物のようなワインを、ワインの楽しさをもっと多くの人に知ってもらいたいと、小売店を作ろうと考えたのが『Però』の初期構想です。並ぶのは全部、『Bricca』で使用しているお酒や食材だけ。それが金田さんにとって本当の“紹介したいもの”だし、そして何よりもう一つ、“ワインと同じように、時間の流れとともに楽しめるもの”。冷蔵庫に美しく並んでいた、『Però』のオリジナル商品のオイル漬けの瓶をふと思い出した。なるほど、そういうことか!と納得です。

共有したいという気持ちが、心地の良い社交場をつくる

2010年頃に出会って以来、森田さんは、お客として『Bricca』に通っていたといいますが、案外、プライベートの部分はお互いあまり話したことがなく、まさにワインと料理で結ばれた関係のようです。森田さんがワインを飲み、食事をする姿を見て、一緒に仕事をしたいと思うようになったと金田さん。

実は何回か一緒に働かないかと誘って断られたという経緯があったのですが、そういった場面でもぶれずに芯の通った意見をしてくれることが信頼の理由の1つかなぁと語っていました。そしていよいよ、近くに小売店を出したいんだという話を持ちかけた時に、金田さんと森田さんの念願のタッグが組まれたのでした。

それから元コインランドリーだった物件に縁があり、森田さんは『Bricca』でも働きつつ、一緒にオープン準備に取り掛かります。(居心地の良いお店づくりに、建築の経験が活かされたこと間違いなしですね!)また、『Però』というリラックスしたロゴは、特別に思い入れのあるワイナリー『RADIKON』の跡継ぎ、サーシャさんに手書きでサインしてもらったそう。実はこの言葉、イタリア語で「だけど」っていう意味なんですって。でも、だけど、と一般的にはネガティブとされる言葉ですが、イタリアには、そんなネガティブも明るく受け入れて、みんなで笑ってたら幸せじゃない?と言わんばかりのゆるい雰囲気が、小さなワインの瓶を中心に広がっていた。そんな場所を作りたいと、森田さんは言っていました。

いいお酒とは、おいしいだけじゃなくて、「合わせてこれが食べたい」「友人におすすめしたい」「つくり手に美味しかったと伝えたい」というその先の欲をかき立てるものだということ。色んな土地の、色んな生産者の、色んな時期のワインの味や背景を知るのが、ワインの楽しみだということ。そんなことを、森田さんに教えてもらいました。

枯山水とは、何も機能しない場。町には、あえてそういったスペースが必要だと、畳6畳分にも渡る卒業制作をした森田さん。大人になって、それぞれの事情を包み込む、受け皿のような、枯山水のような場所を、彼は今形にしているんだなと思いました。

森田さんが、建築業界で仕事に打ち込んだ日々を経て接客業が好きになったのも、「共有」する楽しさを、身をもって感じたからじゃないかなとか、色んな想像を。水みたいなものでもう何も感じない(?!)という『カルッシン』の赤ワイン、私はとっても気に入って、今度家族に買っていってあげることに決めてます。

帰りものんびり電車に揺られて、改札を出たら夜風を感じつつ、ほろ酔いで家路をたどる。次はいつ「Però」に行けるかなぁ、誰かを誘って行くのもいいなぁ、でも1人でもいいなぁ、なんて思いながら、気づいたら夢の中なのでした。

『Però』森田さん×Muiのコーヒー

1. Muiのコーヒー豆との出会い
『Bricca』金田さんと大沢さんの仲が良く、それで『Mui』を知りました。
コーヒーを飲んでみて、仕入れることを決定。
大切にしていることが同じだなと、大沢さんには共感をしています。

2. コーヒーに合わせたい、お気に入りのメニュー
フォンダンカカオですね。
ランチタイムには是非、甘いものまで楽しんでいって下さい。
ペルー産のアマゾンカカオのフォンダンショコラです!

3. Mui大沢さんから一言
森田まーくんのワインとの向き合い方がすごく好きで、
愛は深いんだけどすごくゆるく、進められるままにいつも飲み過ぎてしまう。
ぜひPeròで体験してみてください。

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